春琴抄

歪曲された愛のはて

春琴抄は盲目の三味線師匠春琴と春琴に仕える佐助との献身的であり, 歪曲された愛の物語である. 何不自由なく育った春琴は驕慢で周囲の人々の反感も買い, 美貌と天賦の才に恵まれた春琴は,ますます増長し弟子にも峻烈に加虐的な態度をとり続ける. しかしそんな春琴も佐助がいないと生きてはゆけず, かと言って二人は婚姻して誰からも夫婦として認められる生活を望んだかといえば異なるのである. 春琴はとある事故で大火傷を負い美貌を失う. 災難が起きてからの春琴は悲壮感漂い,増上慢の春琴ではなくなるため, 佐助はそんな春琴を見るに耐えきれず,自らの目も突いて暗黒の世界に入るのだが…

崇高な愛のかたち

そこまでをして師弟の愛を貫き通し,春琴に寄り添ってゆく佐助の姿と, 災難が起きて初めて艱難に遭遇した春琴の奥深い人生は, まるで菩薩のような清らかな美しさを感じさせる. 春琴を聖者のように慮る佐助の崇高な愛には, こんな愛の姿もあるのかと畏敬の念さえ抱いてしまう. 二人は心の目を通して愛し合っていたのではないか. 佐助にだけは醜い顔を見られたくないと, また佐助が目を潰した時の春琴の余白の間が切ないほど愛おしく感じられた. これほどの愛を貫いてみたい.